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肝心なところで失敗する人1

  • シリーズ2

「決して成功してはいけない」

かつてある一流大学の理科系の教官から次のような話を聞きました。
彼は毎年、監督官として入試試験に立ち会うのですが、受験生の中に名前や受験番号を書かずに答案を提出する者が、一会場に必ず5,6人いるというのです。

自分の人生を左右するほど大事な受験の場です。うっかり忘れることは許されません。

試験開始の時刻がくると主任の監督官が、まずいくつかの注意事項を読み上げるのですが、特に「試験が始まったら最初に名前と受験番号を記入すること」が強調されます。
規定の時間が半分経過した頃、再び監督官は「あと残り時間は〇〇分です。この機会に名前と受験番号をチェックしてください」と告げます。やがて終了時間がやってくると「やめ!答案用紙を置いて退場してもらいますが、その前に名前と受験番号の書き落としがないか、もう一度確認してください」と3度指示が与えられます。

しかしこれだけ念を押しても毎年、必ず名前や受験番号の記載もれがあるというのです。そういう答案を見ると、数学にしろ物理にしろ、設問は余すところなく答えている立派なものが少なくないそうです。
入試のたびに、この教官は、こういう学生は将来、人生でも似たような失策を重ねるのではなかろうかと真剣に考えさせられるというのです。

最近では、この種の記載もれや誤記について、大学側も寛大な態度で臨んでいるようですが、果たして問題はそれで解決するものでしょうか。

先日、M君と名乗る23歳の男性から電話がかかってきました。私の友人に紹介されたということで、悩みを聞いて欲しいというのです。込み入った事情があるらしく、直接会って話したいということでした。

ところが、約束の当日、待てど暮らせどM君は現れません。急な用事でもできたのだろうと思っていたところ、二日後に今度は私の友人から電話がかかってきました。ぜひM君と会って欲しいというのです。M君が約束をすっぽかしたのは、急用のためではなく、気後れしてしまったからだと友人は説明しました。
そして今度は友人が間違いなく彼を連れてくるとのことでした。

翌日、M君は友人に連れられてやってきました。彼はある電機メーカーに今年入社したばかりで、私の友人はその保証人なのだそうです。

M君の悩みというのは、今の勤務先をクビになるのではないかという不安でした。自分は何をやってもダメで、つくづく自分に愛想が尽きたというのです。

友人がさらに詳しく説明しました。一週間前、M君の上司から電話があったそうです。M君は入社してまだ半年だというのに、すでに遅刻が20回を超えている、注意すると素直にあやまるのはいいが、一向に改まらない、このままでは将来も危ぶまれるから、保証人のあなたから注意してやって欲しいというのです。

驚いた友人は、早速M君に質しました。しかしM君は、どうして遅刻を重ねるのか自分でも分からないと途方に暮れるばかり。遅刻に限らず、人と何か約束しても、なぜか守れないというのです。友達にも嫌われるし、本当に自分はダメな人間だと涙をこぼすのでした。そこで友人も困り果て、私に相談してみるよう助言したというわけなのです。

私は彼の話を聞きながら、M君の様子を観察していました。Gパンの膝に手を置いてうなだれる姿は、まだ若いのに尾羽打ち枯らした風情で痛々しいものでした。

M君の場合は、遅刻と約束破りの常習ですが、私たちの周囲には何回となく自ら墓穴を掘るような行為をくり返す人がいます。

先日、ある地方紙に一人の万引き常習者の話が載っていました。その男性は、何度もつかまっても同じ手口で、それもバーゲンの靴下のようなつまらない物がかりを狙うのです。何度失敗しても同じことをくり返すので、この人は見つかって警察に突き出されるために万引きをしているのではないかとさえ思われるほどでした。

M君をこの万引き常習者と同じに扱うのは酷ですが、自己の不利になる行動を反復する人は、交流分析の観点からすると、その裏に本人の気づいていない、隠された目的や動機を秘めていることがしばしばあります。
M君の場合、自分はダメな人間だ、したがってよりよき運命に値しないという構えがあり、その歪んだ構えを実生活で確認するために遅刻しているように見えるのです。

そこで私は彼に、なぜ自分をダメだと思い込んでいるのか、その理由を聞き出すことにしました。私は紙と鉛筆を渡して「そこに、これまであなたが自分のお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃん、兄弟、学校の先生や先輩…といった人たちから否定的な評価を受けたことを思い出して全部書いてごらんなさい」といいました。

M君はちょっと首をかしげて考え込んだ後、鉛筆をとって書き始めました。後から後から思いつく限りの「ダメ項目」を書いていきます。M君のリストは、たちまち一杯になりました。数えてみると、なんと32もあります。

私はもう一枚、別の紙をM君に渡しました。そして「今度はあなたが、優れている、よくできたといわれたことを書いてごらんなさい」といいました。

M君は白紙をにらんだまま、じっと考え込みます。今回は先程と違って鉛筆を握りしめた手がほとんど動きません。およそ5分もたったでしょうか。M君の手が紙ににじり寄ったかと思うと、ほんの数行ばかり書き込み、申し訳なさそうに私に手渡しました。

「小学校の時、自転車のチェーンがはずれたのを自分で直したら、父にほめられた」M君は恥ずかしそうにうつむいています。たった1つ。32体1です。
「M君これじゃ、自分がダメだと思うのも無理ないね」と私がいうと、彼はこくりとうなずきました。

世の中には、何をやっても失敗続きという人がいます。よく見ると運が悪かったというよりも、自ら望んで失敗しているかのように見えます。
こうした人たちは、しばしば「成功してはならない」という禁止令が与えられていることがあります。「あなたは何をやってもダメねえ」「お前は肝心なところで、必ず失敗するんだから」といった類の親のメッセージがくり返されると「成功してはならない」という禁止令となるのです。M君はまさにこの例といえましょう。

さらに親自身の生活の歴史の中に、中途退学、離婚、失業や倒産の反復などが見られれば、言葉以上に明確な内容の禁止令が伝わる可能性があり、それが後の人生にまで影響を与えていることが少なくないのです。

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