かたくななプライドの持ち主
- シリーズ2

「人のやり方に従ってはいけない」
K子さんは、学生時代に年下の医学生と親しくなり、家族の反対にもかかわらず、二人の将来について誓い合いました。
しかしその後、男性はアメリカへ留学し、最初の1年は時々便りをよこしましたが、その間隔が次第に遠のいてゆきました。
K子さんの方は、身の回りの出来事をこまごまと書き綴った分厚い封筒を、毎週きりんと送り続けましたが、ついには彼の方からは季節の挨拶状が年に一度来るか、こないかという状態になりました。
目の前で婚期を逸していく彼女を見て、親族は見合いを勧めるなど、いろいろと常識的なアドバイスを与えようとしましたが、本人はたちまち興奮して「私を信用しないの」と怒るのです。
その後、4年、5年と経過する頃から、彼女は目まい、肩凝り、吐き気など、さまざまな体の症状を訴えるようになり、家族もほとほと手を焼いて、ついに彼女に入院するよう勧めました。
病院でもK子さんは相変わらず彼のことを語り、日記風の手紙を書き続けました。主治医やナースが彼からの返事がないことについて聞くと、彼は研究に専念していて、返事を書く暇がないのだと説明していました。
その間、彼女の家族も直接彼に手紙を送って、その真意のほどを確かめたのですが、ついに返事はなかったということです。
米国から帰った彼の学友から、彼が他の女性と親しく交際しているといった類の話が一度ならず伝えられましたが、K子さんはそれにまったく耳を貸そうとはしませんでした。
その間に6年の月日が流れました。やがて7年目にやると、彼女は彼の研究が一段落したらしいという情報を、どこからともなく得て「彼は、今は研究生の身で帰国する余裕がないから、私の方から行ってあげて、向こうで結婚式をあげる」といい、周囲の反対を押し切り、多額の借金までして、単身アメリカに飛んだのです。
ところがK子さんは、ほとんどトンボ帰りのように、一人で帰国しました。渡米前、多くの人々に迷惑をかけたのに帰国後、あまりに無邪気に振る舞う彼女に、たまりかねた友人が結婚について質問しました。
彼女から帰ってきた言葉は「彼は今、アメリカナイズされ過ぎています。帰国した後、またもとの彼に戻るまで待ってあげようと思います」というものでした。
その後、彼女はまわりの人々からほとんど相手にされなくなり、やっとアルバイトの一つもして、自分の身の振り方を考えるようになりましたが、その時なは、もう40歳近くなっていたのです。
我々は誰でも、不安や葛藤に出会うとここに見られるような「否定」や「合理化」の防衛機制を一時的に用いることがあります。しかし大体において、人は現実の状況をよく観察してやがてそれを建設的、効果的に解決してゆく方法を講じるものです。
もともとこれらの防衛機制は不安を和らげ、心の緊張を解消しながら何とか苦痛の多い状況に適応していくための手段です。ところがこれらの防衛機制には、現実を歪めたり、覆い隠したり、拒んだりするなど、非合理的な問題解決の方法も少なからず含まれています。
そこでこうしたからくりを、幼い頃から使うことに慣れすぎると、精神的な発達を妨げたり、性格の柔軟性を失わせてしまったりすることがあります。
まして成人してからも、それを常習的に用いるようになると、K子さんのように大きな不適応を招くことにもなるのです。
生育歴を聞いてみると、K子さんは就学以前に父親を亡くし、過度に宗教的な母親の手によって「世の汚れに染まらぬように」育てられました。彼女はなかなかに美人でもあったので、おそらくそのような母親のもと「私はOK、他人はOKではない」という構えに基づいた、過剰な自尊心を持つようになり、自分の世界の中で中心的な存在を占めるに至ったのでしょう。
このような根拠のない独りよがりの自信の奥に、自己愛の病理が潜んでいることを最近の心理学は明らかに資ています。四十代の主婦の相談をお聞きください。
「主人は酒好きなうえ、結婚してからずっとマージャンに熱中しています。自分の意見だけが正しく、言い負かされ鵜と殺意を感じると言います。『おれは天才だ』と、私や子供を馬鹿にします。私が子供と仲良く話をしていると『おれをもっと大切にしろ』と不機嫌になります。したい放題の主人ですが、私は頑張って家庭をもり立ててきました。主人の父親はワンマンで、主人は幼い頃から両親の愛情に恵まれず、馬鹿呼ばわりされ育ったようです。そのためか、今でも父親に頭が上がりません。主人の生育歴が気になります。このような主人と一緒に生活していくには、どうしたらいいでしょうか。」
こういう人には次のような特徴があるといわれています。
〇自分は特別で、他の特別の人にしか理解されないと信じている。
〇実力がないのに、称賛されることを期待している。
〇上司や同僚が無能で、自分を評価していないと思い込んでいる。
〇自分の考えを主張するが、現実性が乏しいのもが多い。
〇他人の気持ちや欲求を理解しようとしない。
〇自分の意見が通らないと攻撃的になり、トラグルを起こしやすい。
〇とても傷つきやすい面をもち、自尊心が脅かされると抑うつ状態に陥る。
先の主婦のご主人のように、他者と共感的な関わりを持つ幼児期に心に傷を負うと、根拠のない全能感が満ちあふれた世界に留まり続けるのです。
この病理を抱いた代表的な人物として、中西信男(大阪大学)は、ヒットラー、岸田劉生(画家)、北大路魯山人(陶芸家)などをあれておられます。
