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ワーカー・ホリックの人

  • シリーズ2

「人生を楽しんではいけない」

ある技師の話です。彼は製鉄所の溶鉱炉などを作る仕事をしており、その道では有数のエキスパートといわれています。しかし、たえず蕁麻疹に悩ませれ胃潰瘍を何度も再発させては入院というパターンを繰り返しているのです。

この人は、まさに「仕事中毒」で、働きづめといった毎日を送っており、本当にすさまじいばかりです。昼食は立ったままで、それも2分間ですませ、日本全国を股にかけ仕事して歩くのです。

その間、休日らしい休日もとらず、ついに疲労困憊しては倒れる、といったパターンを繰り返しています。本人も、こんな生活を楽しいと思ったことなどありません。なのになぜか、自分を仕事に駆り立ててしまう。文字どおり、ブレーキが利かないというのです。

ではこの技師をこうした飽くことのない緊張と活動へと駆り立てている力とは何でしょう?それを知るためには、彼の生活史を振り返り、そこで作られた禁止令をさぐらねばなりません。

彼は地方の名家に生まれました。母親は本人が3歳のときに亡くなり、その後、継母のもとで10人の兄弟とともに育っています。継母は子供たちを差別して扱ったりしませんでしたが、父親は子供を樫の棒で折檻するほど厳しい人だったそうです。

戦後、父親は盗難にあい、保証倒れの不運も重なって、会社は倒産してしまいました。このため彼は小学校卒業と同時に、築炉業の親方のもとに奉公に出され、寸時も気の抜けない生活を始めることになります。

食事時などは、兄弟子たちのご飯をついで回った後から食べ始めますが、みんなの終える前には食べ終えていなくてはならないので、叱られないためには、お茶で流し込むようにして、ご飯をかきこまねばなりませんでした。

しかし、こうした屈辱的な生活を続ける間にも、彼は「私は字もろくに書けないほど教育のない者なのだから、仕事をして腕を磨くしかないんだ」とひそかに決意を固めたといいます。

また当時、彼の家は多くの子供をかかえて貧困をきわめており、給料日には継母が会社にきて、彼の働いたお金を持ち帰ることになっていました。本人は自分の給料袋を見たこともなく、下着すら自分で買うことができず、時には口惜しさのあまり、夜通し泣き明かすこともあったそうです。

このような幼い頃からの「忍従の生活」周囲の要望に応えるための「際限のない気づかない」「低学歴という劣等感」を克服するための努力などがもとになって、彼の性格が作られたものと思われます。

その後は、彼は若干18歳で、その道の一般の技師免許を取得しましたが、これは全国最年少の記録だったといいます。

こうした仕事中心の生活態度は、結婚した後も変わりませんでした。家でも食事の時間は5分でけ、すぐに自室に入って仕事の計画を立てるといった具合です。最近では兄弟で会社を経営するところまで成功しましたが、兄は趣味中心の生活でけっこう楽しんでいるのに、彼は1人で数百人の職人を指導し、自らは6人分の仕事をこなすという仕事中毒の生活を維持したままなのです。

こうした彼の生涯を見る時、病気が唯一の休息の場を与えているといった印象を受けます。彼自身も「こんなに働く必要はないと頭では分かっているのですが…」と首を傾げます。

もうお分かりでしょう。彼には「寸暇を惜しんで働け」「決して休んだり、遊んだりしてはならない」「人生を楽しんではならない」といった類の禁止令が叩き込まれていると考えてまず間違いないでしょう。
彼にとって甘えること、仕事以外のことで自分を喜ばせること、人生を楽しむことは、まさにタブーなのです。
こういうタイプの禁止令を「決して式の脚本」といいます。

休みたい楽しみたいとおもっているのに、逆に働きづめに働くといった行動を、心理学では「反動形成」といいます。彼の場合には、働き過ぎて倒れ、その後、長時間、仕事を休むという行動様式そのものに矛盾が現れています。

このような、まじめ過ぎる責任感が強すぎる、完全を期待し過ぎるといった「・・・過ぎる」態度は「反動形成」という、まったく逆の防御的な行動を引き起こすことがよくあるのです。

休むこと、遊ぶこと、楽しむことに何か後ろめたさを感じ、普通の人のように、ごく自然にふざけたり、羽目を外したりできない人には「人生を楽しんではならない」といった禁止令が働いている可能性が高いのです。

最近このような禁止令に従う生き方は「タイプA」として注目されています。

中小企業の社長のNさんは、自他ともに認める仕事人間の鬼です。いつも時間に追いかけられていて、エスカレーターも走ってあがるのは当たり前。話し方も早口で、食事の時間も10分とかけません。
テレビで野球を見るのが唯一の楽しみのようですが、コマーシャルが始まると帳簿に目を通し、携帯電話で社員と連絡をとったりするのです。
他人の話がもどかしくて、少し長くなると口をはさんで断定的な意見を述べ、ひどく激高することも珍しくありません。また同僚や部下を信頼できず、他人を競争相手と考え、いつも仕事に駆り立てられているのです。

もしあなたがNさんと行動パターンが似ていたら、心臓発作や過労死を引き起こす可能性があるのです。

この禁止令の下にある人を知る手がかりを、いくつかあげてみましょう。

〇一度に二つのことを手がけるほど、時間の切迫感にかられていませんか。休みに自分のデスクでサンドイッチをかじりながらレポートをかきなぐってはいませんか?

〇若い人や子供がふざけたり、勝手なことをしているのを見ると腹が立ってやめさせたくなったり、宴会や旅行などでハメをはずして楽しめないのでは?

〇寒い日でも家までついつい歩いて風邪をひいたりしませんか?駅前からタクシーを使って帰宅し、ゆっくり暖をとることができますか?

〇子供の場合、おとなしいガリ勉タイプではありませんか?体育や休み時間がイヤで、教師や大人との交流の方を好むといった様子が見られませんか?

〇「決して人に頼るまい」「苦痛にも甘んじよう」「周囲の面倒を見るのは私しかいない」などと、自分に言い聞かせて犠牲者を演じていませんか?

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