好意の押し売りをする人
- シリーズ2

「あなたのためなのに」
「あなたのためなのに」は、ことわざでいうと「飼い犬に手を噛まれる」「恩を仇で返す」「悪女の深情け」などの結末に終わるゲームです。
本人は日頃から相手を可愛がったり、面倒をみてやっているつもりでいたのに、思いがけず裏切られたり、拒まれたりしたと感じています。
それが独り善がりで相手にとってありがた迷惑である点に気がつかないのです。むしろ、そっぽを向かれると「恩知れず」とか「感謝ことを知らない奴だ」と失望の色を隠せません。
このゲームを演じる人は、自分は他人よりも優れており、健全であるのだから、弱い者や困っている人を助けるのは当然だという強い信念(自己否定・他者否定の構え)に駆られて行動します。
しかしこうした信念や義務感は、意外におめでたい判断に裏打ちされています。つまりこちらが助言や援助を与えれば、相手はありがたがって、それを受けるものだと決め込んでいるのです。
そこで問題のありそうな人を見つけるや「あなたのためを思って…」と熱心に世話を焼き始めます。しかし相手はこれを好意の押し売りと感じ、次第にいらだってきます。
本人は相手のそんな素振りが腑に落ちないという顔で、ますます援助しようとします。ついに相手は業を煮やして、つっぱねるか逃げ出すかすることになります。その時点で本人は「人の気も知らないで…」と相手の「裏切り行為」を嘆くのです。
以下この種のゲームの例をいくつかあげてみましょう。
〇お節介な主婦・・・これは団地や社宅でよく見られるケースですが、頼まれもしないのに「バーゲンセールでお買得商品があったので、お宅にもと思って…」と商品を持ってきたりします。
最初の一、二回は感謝されますが、次第に周囲の主婦たちから迷惑がられて総スカンを食うことになります。
しかし当人は「人がこんなに親切にしてあげているのに」と一人憤悶やる方なしといった表情をするのです。
〇職場での例・・・「近頃の若い者に仕事を教えてやろうと、いろいろと注意をすると、いちいち干渉しないで欲しいと反発するんですからね。まったく扱いにくいものですね」とこぼす先輩社員。
あるいは、気を利かせたつもりで、同僚の病気を周囲に伝えたものの後から「病状を考えずに見舞いにこられては困る」という苦情を相手の家族から聞かされて、首をかしげる社員。
さらには、積極的に部下の二人を見合いさせ、仲人役まで買って出るものの半年後に離婚に終わって、かえって恨まれている課長など。
〇不登校児や無気力青年ができあがっていく過程…こうした子供たちの親は「お前の将来を思えばこそ」という口実のもとに、子供に一定のレールの上を走らせようとします。子供は上善据膳のサービスを受け、ひたすら勉強中心の生活を過ごすことになります。
ところが思春期を迎えると、親の決めた大学には絶対に行かないと言い出したり、自分の進路を決めかねて無気力、無関心におちいってゆきます。時には激しい暴力というシッペ返しを喰う親もいるでしょう。
この段階で親が「どれだけ自分のことを犠牲にして、お前を育ててきたと思うの?」と迫ってみても、事態は悪化の一途をたどるばかりです。
子供たちには生活体験の幅が狭いのが特色です。幼い頃には特に、やりだした事を完成させ、その喜びを味わうことが大事なのに、勉強一筋でそれができていないのです。苦労して何かを作りあげる習慣がないので、一度つまづくと解決の方法も分からず、その意欲も持ち合わせていません。
その結果、不登校や無気力に陥っていくのです。
「あなたのためなのに」のゲームは、心理療法の場でもしばしば演じられます。このゲームを演じるカウンセラーは、社会的には献身的で立派な人々が少なくありません。
教師としても、管理者としても、ある意味で優等生といえましょう。しかし矛盾するようですが、立派であるが故に、自分よりできの悪い者の気持ちを汲み取ることができない傾向にあるのです。
それには、次のようなことが影響していると考えられます。
〇カウンセラーとしての愛情と情熱は豊富なのに、自分の描く愛情のイメージに相手をはめ込もうとする。
相手が求めている愛情の性質が分からない。
〇カウンセラーの愛情は、案外、自分本位の期待の表れであって、相手の求めているものとズレていることがある。
そこで相手は、カウンセラーの愛情を重荷に感じるようになる。
〇カウンセラーの構えに、基本的に他者否定的な面があるため、相手はカウンセラーの態度に独善的で押しつけがましいものを感じてしまう。
〇カウンセラーが立派すぎると、何不自由なく育ったお坊ちゃん(お嬢さん)と映り、相手は嫉妬や差別感情にかられて攻撃したくなる。
〇幼時から不幸に育った人のなかには、カウンセラーからあまり献身的に接近されると(過剰な同一化)飲み込まれて自分がなくなってしまうような不安にかられる人がいる。
こうして身の安全を図るためにカウンセラーから逃げ出したくなる。
Kさんの奥さんは、何とか夫を元気にしてあげたいと励ましたのに、かえってうつ病を悪くしてしまいました。
うつになる人は、自分のウィークポイントを心得ているので、そこを配偶者などからグサリと突かれると、死にたくなるほど辛くなるものなのです。
相手のために役立つことをしたい気持ちはわかりますが、知識もなく訓練も受けていない人が深くかかわると、余計に心を傷つけてしまうのです。
