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謝りたおす人

  • シリーズ2

「すみません」

こらは謝罪(「すみません」「私が悪かったです」など)という手段を用いて、巧みに相手の免罪を得たり、気を引いたりするタイプのゲームです。

たとえば相手の都合などにはお構いなしに、強引にものを頼むのが上手な人がいます。
「すみません。本当にご迷惑をかけて…」と頭を下げ続け、相手から断られても、じっと居座って承諾を得るまでは、なかなか動こうとしません。

昔はこの種のゲームにたけた学生が時々いました。アルバイトのためか苦学のためか、レポートの提出が遅れ、期末試験でも落第点を取ったとします。すると彼らはトン等教授の家を訪れ、平身低頭して「何とかそこを…」と嘆願するのです。時には門前で一夜を明かし、ついに特別の恩恵を勝ち取ったといった体験談も聞かれました。

このように「すみません」のゲームを演じる人は、自己卑下の姿勢を打ち出すことによって、相手がそれ以上の非難や懲罰を下さないようにしてしまいます。
相手方は「しょうがないが、今回だけは大目に見てよろう」と許してしまいます。

たとえ一、二度、本人の謝罪をつっぱねたとしても、相手から「これだけ誤っても…」と恨み言めいた口調で迫られると、たいていは折れることになります。
この間に相手は「すまないで済むと思うのか」と叱責するものの、内心では免罪を与え始めているのです。

このゲームの例をいくつかあげてみましょう。

〇結婚していながら、たびたび浮気を重ねる男性。妻や親族から責められると、その都度「申し訳ない。今後、金輪際、相手と手を切るから許して欲しい」と涙を流し、配偶者側も、ついこれにつられて寛容な態度で臨むことになりますが、それもつかの間、また同じ浮気騒動がくり返されることになります。

〇アルコール依存症患者の言い訳にもよく見られます。「すべて酒の上のことですから、平にご容赦いただきたい」といった弁解が案外、私どもの社会ではまかり通っているのではないでしょうか。

〇上司が部下に対して自分のミスや非をごまかす時にも用いられます。たとえば会合の時間を間違える、また話の途中で長時間中座するなど、明らかに迷惑をかけながら「いやー、すまん、すまん悪かった」といった調子で、その場が片付けられてしまう場合には、この種のゲームが演じられている可能性があります。

この「すみません」のゲームには、どんなからくりが働いているのでしょうか。それは幕切れに示唆されています。
こういう人の図々しさと身勝手さのために、お人好しの相手もついに業を煮やすか、もう二度と関わりたくないと、結局最後には拒絶的な態度を表明して、離れていきます。「すまない」というのは単なる口実で、その奥に甘えが潜んでいることにやうやく気づくからでしょう。

この種のゲームの起源をさらに探ると、幼い頃から破壊的な行動が、比較的容易に許されるような親子関係が関連しているように思われます。最近は子供が大事にされすぎて、物を壊しても「心配しなくてもいいのよ。ひどいケガでもなくてよかったわね」と許され、何らかの計画を台無しにしても「困ったことになったな。でも、お前がわざとやったわけでもなし…」と寛大に取り扱われる傾向があるのではないでしょうか。

子供がスーパーで万引きをすると、母親が飛んできて「すみません。お支払いしますから…。でもお宅の方も警備員を増やして、子供を監視して下さればよいのに…」といった類の抗議すら聞かれます。

少し古い話ですが、昭和52年に日本赤軍による日航機ハイジャック事件がありました。どこまでも人命の尊重を貫いたとする政府の方針を是とする意見と、政府の対応は無策で、むしろ強硬な手段をとるべきだったという反論があったように思います。
ところが母親の中には「かわいそうな青年たち!あっさり謝ってしまえばいいのに。そして許してあげればいいのよ」といった考えのあることも、新聞が伝えていました。このように親の中にも「すみません」が自己防禦の免罪符となり、それが社会に承認されるものと思っている人が少なからずいるらしいのです。

大人たちが若者に説教した途端「わかりました」「すみません」という答えが返ってくる。心理学の渋谷昌三教授は、そんな反応を相手の矛先をかわすための“肩透かし”の術と分析しておられます。
学生は「すみません」と言うことで、素直で従順な姿を演じる。対する教師は肩透かしを食らって、攻撃心がなえ、かえって「しっかりやりなさい」などと言って、やりとりは終わる。
しかしこういう学生は結局、落第点をとって進級できない。一方、長い時間かけ話し合った後で「わかりました」という学生は、気持ちを入れかえて勉強に身を入れるようになるそうです。

渋谷教授は「じっくり時間をかけて、ガツンとぶつかり合う」という、素朴な対人関係を取り戻すことが必要だと言われています。 

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